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薬物依存者の意思決定:リスク回避より目先の利益を優先する近視眼的意思決定 研究活動 | 研究/産学官連携

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Academic year: 2018

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【ポイント】

 島皮質の機能異常が覚せい剤依存ラットのハイリスク・ハイリターンの意思決定に 関与する。

島皮質のGABA神経の機能不全が覚せい剤依存ラットの意思決定に関与する。

 覚せい剤依存ラットではハイリターンに対する主観的な報酬価値が大きくなってい る。

薬物依存者の意思決定 : リスク回避より目先の利益を優先

する近視眼的意思決定

最近世間を騒がしている危険ドラッグや覚せい剤乱用による危険行為、なぜ、一 度手を染めた人は、リスクを負ってもドラッグの売買をするのでしょうか?なぜ治 療したはずなのに、依存症は再発するのでしょうか?どうして自分をコントロール できなくなるのでしょうか?そして、こうした症状は脳のどこから生まれるのでし ょうか?私たちはちょっと変わった視点(意思決定)から、薬物依存者の脳と心の 問題に迫りました。

薬物依存者の意思決定は近視眼的であり、長期的な利得の予測や評価が、健常者 とは異なります。薬物依存者の他、ギャンブル障害や統合失調症の患者においても 意思決定障害が認められますが、その神経基盤はほとんど解っていません。

名古屋大学大学院医学系研究科(医療薬学 山田清文教授)、環境医学研究所およ び環境学研究科からなる共同研究チームは、この問題に挑戦するために、動物用ギ ャンブルテストを用いて覚せい剤依存ラットの意思決定の特徴を調べました。

その結果、覚せい剤依存ラットはコントロール動物に比較してハイリスク・ハイ リターンの選択肢を選ぶ割合が高いこと、また、この意思決定の変化には島皮質神 経の異常な興奮が関与していることを明らかにしました。さらに、計算理論に基づ くシミュレーションにより、覚せい剤依存ラットではハイリターンに対する主観的 な報酬価値が大きくなっていることがわかりました。薬物依存者の「薬への強迫的 欲求」だけでなく、こういった脳機能障害が根底にあるため、依存症の再発に繋が ると予想されます。

これらの研究成果は、薬物依存の予防や診断・治療にも応用可能であり、意思決 定障害に関する研究は、ギャンブル障害の病態解明にも繋がるものです。

本研究は、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国東部時間 2015 7 6 日付 けの電子版(午後 3 時))に掲載されました。

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【背景】

薬物依存とは、ある薬物の精神的効果(快感)を得るためにその薬物の摂取を強迫的 に欲求している状態であり、「薬が欲しい」とか「薬が止められない」状態のことです。 依存を誘発する薬物は「依存性薬物」と呼ばれ、モルヒネやアヘンなどのオピエート類、 メタンフェタミンなどの覚せい剤、コカイン、大麻、睡眠薬などがあります。嗜好品で あるアルコールやタバコに含まれるニコチンあるいはトルエンなどの揮発性有機溶剤 も依存性を示します。最近ではデザイナーズドラッグとよばれる危険ドラッグの乱用が 急増し、薬物依存のゲートドラッグになることが懸念されています。

一方、私たちが生活する社会は予期せぬ出来事の繰り返しです。そのような不確実な 状況において、私たちはより良い結果が得られるように、複数の選択肢の中から最良と 思われる選択肢を選び日々生活しています。リスクとベネフィットのバランスを考えて 行動を決定するプロセスが意思決定です。前頭葉皮質に損傷のあるヒトの場合、その意 思決定は近視眼的であり、長期的な利得の予測や評価が健常者とは異なります。薬物依 存やギャンブル障害、統合失調症の患者においても意思決定障害が認められますが、そ の神経基盤はほとんど解っていません。この問題に挑戦するために、名古屋大学大学院 医学系研究科(医療薬学 山田清文教授)、環境医学研究所、環境学研究科の共同研究チ ームで研究を行ってきました。

【研究の内容】

独自に開発したラット用ギャンブルテストを用いて調べた結果、薬物依存ラットでは 予期せぬ報酬(報酬予測誤差)の評価に異常があることでハイリスク・ハイリターンの 選択肢を選ぶ割合がコントロール動物と比較して高いこと、この意思決定の変化には島 皮質神経の異常な興奮が関与していることを明らかにしました。特に、島皮質のGABA 神経の機能不全が関与する可能性を突き止めました。さらに、計算理論に基づくシミュ レーションにより、覚せい剤依存ラットではハイリターンに対する主観的な報酬価値が 大きくなっていることがわかりました。今回の研究結果から、GABA神経が主観的な報 酬価値を決めるのに重要な役割を果たしていることや、薬物依存症ラットと同じように、 薬物依存者もまた予期せぬ出来事(報酬やストレス)に対して近視眼的な行動選択をす る可能性が考えられます。

【成果の意義】

これまでの機能的MRI を用いた臨床研究においても、薬物依存者のリスク志向的な 意思決定に島皮質などの大脳皮質の機能異常が関与することは示されてきました。今回 の私たちの研究成果は、それら臨床研究を強く支持する結果であり、今度は動物モデル を用いることにより詳細な病態解明が期待できます。また、今回の研究成果から、薬物 依存者は社会環境から受ける予期せぬ刺激を十分に脳が処理できないため、自分自身に

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最善となる行動を選択することができないと考えられます。一旦、依存性薬物に手を染 めると、脳内の神経回路に異常な変化が生じ、人格(意思決定)も異なってしまうのか もしれません。これらの研究成果は薬物依存の予防や診断・治療にも応用可能であり、 意思決定障害に関する研究はギャンブル障害の病態解明にも繋がるものと期待されま す。

【用語説明】

意思決定:リスクとベネフィットのバランスを考え、複数の選択肢の中から最良と思わ れる選択肢を選ぶプロセス

GABA神経:抑制性神経

【論文名】

Title: The insular neural system controls decision-making in healthy and methamphetamine- treated rats

Authors: Hiroyuki Mizoguchi, Kentaro Katahira,Ayumu Inutsuka,Kazuya Fukumoto, Akihiro Nakamura, Tian Wang, Taku Nagai, Jun Sato, Makoto Sawada,Hideki Ohira, Akihiro Yamanaka, Kiyofumi Yamada

Journal: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America

参照

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